プロフィール
著者(PN):
月下香治
(かすか・よしはる)
Yoshiharu Kasuka

メール
y-kasuka@jewelryeyes.net


2007年9月15日

2008年1月1日



2007年11月16日(金)

『機動戦士ガンダム00』等について

 前回の更新から2ヶ月が経ちました。日記と言うにはおこがましいような気もしますが、今まで半年に1度しか更新できなかったことに比べれば大幅な改善です。遅筆な私としては、これくらいのほうが身の丈に合っているとも思います。
 今回この時期に更新しようと思い立ったのは、前回予告したとおり、当サイトで紹介しているRPG素案『魔法乱舞ジュエリーアイズ』のヒロインの誕生日を記念して(11月16日は本作の主人公グループ「ジュエリーアイズ」のリーダー、ピュリス=ミナヅキの誕生日です)ということもありますが、どうしても書いてみたいと思えるものが出現したためでもあります。
 今年10月、ガンダムシリーズの最新作『機動戦士ガンダム00』の放映が開始されました。スタッフ・常連客にガンダムシリーズの登場人物の名前をつけることで一部地域で夙に有名な『GUNS BAR ROSES』のホームページスタッフであるところの私ことガルマ・ザビも、キャプテンともども注目して視聴しています。特にキャプテンは、初めてリアルタイムで視聴するガンダム作品ということで、かなり気合いを入れて繰り返しビデオを観ているようです。
(私はといえば、1995年の『新機動戦記ガンダムW』や1996年の『機動新世紀ガンダムX』を時々視聴し、1999年の『∀ガンダム』から完全に観るようになりました。ガンダムXのオープニングテーマのアーティスト、ROmantic Modeのファンクラブの会員でもありました)
 そのガンダム00、巷間喧しく評されているようではありますが、シリーズで初めて現実の時間軸に軸足を置かせた作品として一定の評価を向けるべきだと思います。私も近未来を舞台とする作品を手掛ける作家を志す身として、刺激を受けるところが大いにあります。このコーナーでアニメ評をするのは初めてのことではありますが、この作品について、過去の作品との比較も交えて、私の知識の及ぶ限り解説し、予測してみたいと思います。
 なお、今回の評論は11月10日放送の第6話「セブンソード」までを視聴した上での、私個人の感想です。まだここまで視聴していない閲覧者様は、ここからの記事はご自身の判断で閲覧していただけるようお願いいたします。
 1979年に放映を開始した『機動戦士ガンダム』は、従来のロボットアニメの概念を覆す、画期的な作品でした。この作品のスーパーロボットは、世界を脅かす悪の秘密組織に単身で敢然と戦いを挑む善の科学者が開発した特別な存在ではなく、どの国の軍隊にも配備される一般的な兵器という位置付けでした。主人公は、超越的な力で世界を救う伝説の戦士ではなく、若干の技能と若干の幸運に恵まれて戦況を切り抜けていく一介の少年兵でした。作品の中には超能力に類する表現も登場してはいますが、それとて世界全体を変革するようなものでもなく、むしろ作品全体を流れるものは、戦争を通じて表現される国際政治と、それに翻弄されていく人間たちの等身大の緻密な人間ドラマでした。現在放映されている『機動戦士ガンダム00』もこの流れを汲むものです。
 ガンダム00では、「西暦2307年」の世界を舞台にしています。この時代、世界は、南北アメリカを中心に環太平洋地域を領域とする「ユニオン」、中国・ロシア・インドを中心にアジア全体を領域とする「人類革新連盟」、ヨーロッパを中心にアフリカまで影響を及ぼす「AEU」という3つの巨大国家群に集約されたとされています。国家群同士の戦争は抑制されているものの、域内の内紛や域外の紛争に恣意的に介入し、もってその威信を示そうとするパワーゲームはいまだに続けられていました。そこに「ソレスタルビーイング」と名乗る私設武装組織が出現し、全世界の紛争の根絶を宣言して各地の戦場に武力介入するというのがこの作品のストーリーです。主人公はソレスタルビーイングの一員で、各国の最新兵器を凌駕するモビルスーツ「ガンダム」のパイロット(作中では「ガンダムマイスター」)です。
 それでは、「ソレスタルビーイングの活躍によって世界から戦争がなくなりました。めでたしめでたし」でこの作品は終わるのでしょうか。
 そんなことは、現実性重視のガンダムシリーズでは起こるはずもありません。何より、「人類全体に変革を迫ることによって戦争を根絶する」ことは、前作『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』できっぱりと否定されています。そのような信念を持っているはずのソレスタルビーイング自身さえも、手探りで行動しているということが作中で描かれています。
 ならば、この作品はどのような形で終結するのでしょうか。
 一般にストーリー作品というものは、「このようなことが起こればこの作品は終結する」ということが作中に仄めかされているものです。過去のガンダムシリーズを視聴した経験則から言えば、独立独歩を願う小国の悲願に乗じて、独裁を敷いて権勢を揮い、あるいは世界への復讐を果たさんとして無軌道に振舞う者を倒せば、ストーリーが完結しました。今回のこの作品には、まだそのような人物は現れていません。むしろソレスタルビーイングがそれっぽく見えます。
 作品をどのように展開させ、どのように終結させるかは、演出陣の専権事項であり、腕の見せ所です。きっと思いもよらない展開が用意されているのでしょう。私たち一般視聴者は、楽しみにしながら観るのみです。それにしても心配なのは、この番組の変則的な放送編成です。
 ガンダム00は全50話、1年分の放送を予定していますが、同じくサンライズが製作している『コードギアス 反逆のルルーシュ』の続編の兼ね合いで、前半25話までを来年3月まで放送し、残りを来年10月から放送する予定になっています。つまり、クライマックスを2回用意しなければならないということです。この難条件をどのようにクリアしていこうとしているのか、私は予想しようとして少々混乱しているところです。
 途中の展開については、私にも思い浮かぶところがあります。たとえば、
・ソレスタルビーイングが原理派と懐疑派に分裂する。
・ユニオンに軍事政権が発足する。
・建造途上のAEUの軌道エレベーターが倒壊、アフリカから中東にかけて甚大な被害が発生する。
などということが起これば、過去のガンダム作品にも比肩しえる衝撃の展開が続くであろうと、私は勝手に予想しています。少なくとも、総集編を挿入しすぎてストーリーの終結が最終回に間に合わなくなったガンダムSEED DESTINYのような展開は避けてもらいたいものです。
 ガンダム00に登場する地名についても解説してみましょう。
 ガンダムシリーズの舞台は、未来の地球です。政治に大きな変動がなければ、そこに現れる地名も現代とさほどの変化はないはずです。しかし、やはりそのまま表現することが憚られるのか、作中では若干の変化を加えて登場させていました。初代ガンダムでは「ニューヤーク」に「キャリフォルニア」でしたし、∀ガンダムでは「アメリア」に「イングレッサ」でした。しかし、『機動戦士ガンダムSEED』では、「アラスカ」や「パナマ」など、現実の地名も多く登場していました。
 ガンダム00でも、アメリカ・ブラジル・インド・スリランカ・アイルランド・フランスなどの国や東京などの都市の名前がそのまま登場しています。また、スリランカ内紛や北アイルランド紛争などの国際情勢もそのままの姿で描写されており、言語学者として世界の民族紛争に高い関心を抱いている私にとっても目を離せない見所となっています。
(常連客のひとりが「ドキドキしない」と言っていましたが、私はむしろ、生々しすぎてハラハラします)
 第2話「ガンダムマイスター」においてスリランカ内紛が描写されたとき、私はもしかしたらこの作品は世界中の紛争の博覧会になるのではないかと考えました。それならば思い当たるところはいろいろありましたが、ヨーロッパが統合されたのならば北アイルランド紛争は存在しなくなるだろうと思っていました。しかし、第3話「変わる世界」に北アイルランド紛争が登場したのでよく調べてみると、三大国家群というものは全体を統括する元首や議会を持つものの、連邦国家ではなくただの「国家群」ということでした。その後、ストーリーはソレスタルビーイングと作品独自の国家との衝突が長く描かれるようになり、現実の紛争がこれ以上登場する見込みがやや薄くなってきましたが、もし登場するのであれば、(宗教絡みだとちょっと厄介なので)アルメニアあたりではないかと踏んでいます。
(なお、第3話終盤でソレスタルビーイングの武力介入を懸念して武装闘争の完全凍結を宣言したテロリスト組織「リアルIRA」も実在する組織です)
 そんなガンダム00でも、内政の描写が深くなされている国々については実名を出すことが憚られると見えて、クルジス・アザディスタン・タリビア・モラリアといった独自の地名が登場します。
 第4話「対外折衝」を中心として登場したタリビアは、南アメリカの北部を領域とする国です。画面に登場した地図によると、現代のベネズエラ・ガイアナ・スリナムとフランス領ギアナに相当するようです。作中では、ユニオンに属しながら国民の反米感情からユニオンからの脱退を仄めかしたり、麻薬の栽培などの裏経済が蔓延っていたりと、政情不安定な国として描かれています。南アメリカというと、ブラジルはポルトガル語でその他はすべてスペイン語地域であると思いがちですが、ベネズエラの他は、ガイアナは英語、スリナムはオランダ語、フランス領ギアナはもちろんフランス語を公用語とする国・地域です。こんな国々を統合しても国家運営は困難になって、早晩破綻するか、あるいは国民の不満を強権で抑え付けるような国になってしまうだろうと、私などは思ってしまいます。
 第6話「セブンソード」から登場したモラリアは、ヨーロッパの小国です。画面では地図がズームアップされる場面はごまかされていましたが、海岸線の形状から察するに、現代のモナコ公国(の一部)のようです。作中では、国民の多数が軍需産業とその関連企業に属する軍事国家として描かれています。ギャンブル立国から転換したようです。国名の「モラリア」は、「倫理」を意味する"moral"ではなく、"e"の付いた"morale"「(軍隊等の)士気」に由来するものと思うと納得が行きます。なお、「タリビア」の語源はわかりませんでした。
 ストーリーにも深く関与するであろうアザディスタンは、中東の新興国です。作中では、化石燃料資源の枯渇によって経済が逼迫し、テロリズムの脅威に脅える国として描かれています。具体的な位置は示されていませんが、語源が「自由の国」を意味するペルシア語であるという情報から、現代のイラン、あるいはその近辺であろうと推察されます。
 問題なのは、ガンダム00の主人公の出身国でもあるクルジスです。この国も具体的な位置がまだ示されていないのですが、英語版Wikipedia記事にははっきりと"Kurdish Republic"、すなわちイラク北部からトルコ南東部にわたるクルド人居住地域「クルディスタン」であるかのごとき記述がなされています。一方、「クルジス」に似た地名は他にもあって、中央アジアのキルギスはキルギス語で「クルグズ」と言います。両者ともイスラム文化圏であり、内陸部であることなど、作中の街並の描写と雰囲気が似ている部分はありますが、人類革新連盟の武力介入を受けていたということを考慮に入れると、地理的に近い(というより含まれている)キルギスが相当するのではないかと私は思っています。
 というように、言語学者というものは、作品ひとつ鑑賞するにも枝葉の設定にいちいち目が行ってしまう厄介な存在です。これでアニメ評になったかどうかわかりませんが、そもそも人物についてほとんど述べていませんが、キャラクターベースのストーリーに関心があるのであればぜひ実際に視聴することを強くお勧めするものであります。
 さて、「ユーロイデオグラム」、およびその普及用小説についても少し。
 この小説の舞台は、私が実際に発表したとするユーロイデオグラムが一部の地域に普及した時代のことになります。ガンダム00と同じような実時間上の未来ということになりますが、300年後にもなると宇宙開発とか超兵器とかの超技術にも言及しなければならなくなりますので、それよりはもう少しこちら側の時代になる予定です。まあ、国境線とかは現代とはガラリと変わっている予定ではありますが。
 今はそれらの設定の構築に励まなければならない時なのですが、何やら少々飽きが入ってきていて、その舞台となる地域が成立した当時の物語とか、ユーロイデオグラムの非印欧語への適用の可能性とか、脇道のことばかり考えてしまいます。あまりにも風呂敷を広げすぎてしまうと、閉じるのが大変だということはわかっているのですが。
 ユーロイデオグラム専用作成支援ツールについては、まだ着手できていません。どのような機能が必要かということを考えている途中ですが、私自身、日本語の文字コードの処理についてまだあまり慣れていないということもあって、なかなか踏み切りが付かないところではあります。
 さて、次回以降の更新ですが、2ヶ月で更新することができましたので、遅くとも来年1月の中旬には更新したいと考えています。もちろん、本来は随時更新するのが理想的なのですが。
 それでは、今回はそういうことで。


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