プロフィール
著者(PN):
月下香治
(かすか・よしはる)
Yoshiharu Kasuka

メール
y-kasuka@jewelryeyes.net


2008年9月15日

2009年3月15日



2008年11月16日(日)

穴埋めの話題

 前回の記事ではユーロイデオグラムの解説を予告していましたが、次回以降に回したいと思います。
 10月初旬に窓枠のアルミサッシ化のための寸法調査、11月初旬にクーラーの排気ホースを外壁に通す穴を付け替える工事のため、珍しく部屋に人が上がることが多かったので、大掃除をしていました。また、7月にテレビ、9月に布団を替えたということもありまして、10年間不動だった部屋を大幅に整理し、模様替えを施してみました。古雑誌を倉庫代わりのガレージに収納するために家とガレージとの間を39往復もしたところ、その後1週間筋肉痛に苦しんだりもしました。その甲斐あって、情報へのアクセサビリティに若干の向上が見られました(今までただ積み上げていただけの書籍を立てて並べることができるようになったので)。後は本棚を買い足して、今後の書籍の増加に備えればほぼ完璧です。
 前回の更新以降はこのように部屋の掃除や整理をして過ごすことが多かったので、情報の収集や整理を必要とするユーロイデオグラム解説記事の準備に手を付けることができませんでした。今回は、その代替としてはたして適切かどうかはわかりませんが、部屋掃除の合間や就寝前などに考察していた数学的な話題について解説してみたいと思います。
 当コーナーでは1度、一般化フィボナッチ数列 F[m,n](F[m,1]=…=F[m,m]=1, F[m,n]=F[m,n-1]+F[m,n-m])を考察したことがありました。ところで、普通の意味でのフィボナッチ数列 Fn=F[2,n](1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, …)では、ビネーの公式と呼ばれる、一般項を直接求める公式 Fn=(1/√5)(((1+√5)/2)n-((1-√5)/2)n) が知られています。私は、一般化フィボナッチ数列、特に m=3 の場合の数列 1, 1, 1, 2, 3, 4, 6, 9, 13, … についても同様の公式が存在しないかと考えていました。
 公式自体は、簡単な連立方程式を解けば導出することができました。3次方程式 x3-x2-1=0 の3つの解を a, b, c とすると、F[3,n]=(a/(a-b)(a-c))an+(b/(b-c)(b-a))bn+(c/(c-a)(c-b))cn となります。ただし、a, b, c を数字で表現しようとすると平方根や立方根を含むかなり複雑な式になるうえに、このうちのふたつは虚数ですので、ビネーの公式のように直接数値を計算できる数字と n だけの数式に書き下すのは困難です。一般に F[m,n] についての公式を導出するにはm次方程式 xm-x2-1=0 を解くことになりますが、5次以上の方程式には解の公式もありませんので、mが5以上の場合は書き下すことを試みることさえもできません(解を元とする数式で表現することはできます)。この公式が一般の書籍やネットにほとんど現れないのは、このような困難性に起因しているのかもしれません。一般化フィボナッチ数列自体が、フィボナッチ数列の別の方向への一般化であるトリボナッチ数列 T[3,n] やテトラナッチ数列 T[4,n] 等(T[m,-m+2]=…=T[m,0]=0, T[m,1]=T[m,2]=1, T[m,n]=T[m,n-1]+T[m,n-2]+…+T[m,n-m])に比べてマイナーということもありますが。
 上記の F[3,n] についての公式を考察していて、気付いたことがありました。実際に成立するのかどうか、nに具体的な数を代入して式を整理・因数分解すると、分母は -(b-c)(c-a)(a-b) になり、分子は -(b-c)(c-a)(a-b) を含む式になって約分されます。残りの式は、n=1 のときは1、n=2 のときは a+b+c 、n=3 のときは a2+b2+c2+bc+ca+ab 、n=4 のときは a3+b3+c3+b2c+bc2+c2a+ca2+a2b+a2b+abc …となります。a, b, c の(n-1)次の係数1の単項式をすべて足し合わせた多項式になるのです。
 上記の各式は a, b, c の対称式になりますので、基本対称式 a+b+c, bc+ca+ab, abc の式で表すことができます。a, b, c は x3-x2-1=0 の解ですので、解と係数の関係により、a+b+c=1, bc+ca+ab=0, abc=1 です。実際に代入してみると、a2+b2+c2+bc+ca+ab = (a+b+c)2-(bc+ca+ab) = 12-0 = 1, a3+b3+c3+b2c+bc2+c2a+ca2+a2b+a2b+abc = (a+b+c)3-2(a+b+c)(bc+ca+ab)+abc = 13-2·1·0+1 = 2, …となります。
 変数3つでは式を記述していくのが煩雑ですので、普通のフィボナッチ数列に話を引き下げて考察していきましょう。f(n)=納k=0〜n]an-kbk=an+an-1b+…+abn-1+bn とするとき、a+b=1, ab=-1 ならば f(n)=Fn+1 であることを証明します。
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(証)定義により、f(0)=1=F1, f(1)=a+b=1=F2
n≧2 とすると、
f(n)=納k=0〜n]an-kbk
=(an+2納k=1〜n-1]an-kbk+bn)-納k=1〜n-1]an-kbk
=(a+b)納k=0〜n-1]an-1-kbk-ab納k=0〜n-2]an-2-kbk
=f(n-1)+f(n-2)。
よって、f(n) はフィボナッチ数 Fn+1 に等しい。(終証)
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 同様の方法で、m が3以上の場合も証明することができます。
 上記の性質は、意外ながらも簡単なものです。しかし、似たようなことが記述されていないかネットを調べてみたところ、Wikipedia英語版の該当ページ(Fibonacci number)にも数学用語サイトMathWorldの該当ページ(Fibonacci Number)にも、Fibonacci Numbers and the Golden Sectionのようなフィボナッチ数・黄金比専門サイトにも記述されてはいませんでした。まさかこんな高校の定期試験の出題に適当な簡素な定理が世紀の大発見であるとは思ってもみませんが、世の中には古代人でもよく考えれば分かりそうな定理に現在存命の数学者の名が冠してある例(Conway Circleとか)もあったりするので油断できません。
 その他に、時々コラッツ予想の考察に心が漂うこともありますが、私ではまだ無理です。実はリーマン仮説と同値なのではないかと、勝手に予想してみます。
 さて、次回以降の更新では、前回の予告どおりユーロイデオグラムの解説をしていきたいと思っていますが、12月中ごろに日本橋に行く予定がありますので、その模様をお伝えするかもしれません。
 それでは、今回はそういうことで。


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