プロフィール
著者(PN):
月下香治
(かすか・よしはる)
Yoshiharu Kasuka

メール
y-kasuka@jewelryeyes.net


2013年3月29日

2013年4月12日



2013年4月5日(金)

日本語の動詞の活用形の個数 (4) 態変数

 まずは、態変数(voice variable)について解説します。
 (voice)とは、動詞が表す行為の行為者と主語が表す人物との関係という観点で動詞の形態を変化させる文法形式です。多くの言語には能動態と受動態の別があり、能動態は主語が行為者であること、受動態は主語が行為の目的物であることを表します。日本語にも能動態と受動態があります。
 日本語には他に使役態というものもあり、主語が他者に指示することによって行為が生じることを表します。使役が動詞を活用させる文法形式として整備されていることは日本語の特徴のひとつであり、他の言語では使役の意味を持つ助動詞や対応する他の動詞を用いて使役を表します。使役でないことを表す文法用語に定まったものはありませんが、ここでは「自発」ということにします。
 日本語の態は、自発・使役の対からひとつ、能動・受動の対からひとつ選択することによって完成します。すなわち、態変数は次の集合Vの要素を値として取ります。
V = {(自発, 能動), (自発, 受動), (使役, 能動), (使役, 受動)} = {能動, 受動, 使役, 使役受動}
 なお、態変数の内部構造のうち、「自発/使役」に関する部分を「態変数(1)」、「能動/受動」に関する部分を「態変数(2)」と呼ぶことにします。
 それでは、態による動詞の形態の変化について解説していきます。
 態変数(1)が値「自発(initiative)」を取った場合、動詞は変化しません。値「使役(causative)」を取った場合、五段動詞では語尾の"-u"が除かれて"-aseru"が付き、一段動詞では語尾の"-ru"が除かれて"-saseru"が付き、全体として一段動詞になります。「読む/見る」は「読ませる/見させる」と活用します。なお、西日本などでは「-せる」が「-す」となる五段動詞として活用することもあります。これを「第2使役形」ということにしますが、方言形ということで活用形の個数に含めないことにします。
 態変数(2)が値「能動(active)」を取った場合、動詞は変化しません。値「受動(passive)」を取った場合、五段動詞では語尾の"-u"が除かれて"-areru"が付き、一段動詞では語尾の"-ru"が除かれて"-raseru"が付き、全体として一段動詞になります。「読む/見る」は「読まれる/見られる」と活用します。ただし、「-す」以外の語尾で終わる五段動詞の使役受動形に限り、第2使役形から活用するのが一般的です。よって、「読む/見る」の使役受動形は「読まされる/見させられる」となります。
 日本語は他の言語とは異なり、自動詞でも受動態になります。そのため、日本語の動詞はすべて、能動・受動・使役・使役受動の全ての形態を取りえます。また、能動・受動・使役・使役受動のいずれかの態において極変数・時変数・法変数がある値をとるならば、他の態でも同じ値を取ることができるという、整然とした体系となっています。よって、以下の極変数・時変数・法変数の解説においては、代表として能動形のみを例とすることとします。
 ただし、注意しなければならないことがひとつあります。受動形と同じ、または受動形から派生した形態が「可能形(potential form)」として使用されているということです。五段動詞では受動形の内部から"-ar-"を除いたものを「可能動詞」といい、「読む」は「読める」となります。一段動詞では受動形そのものが可能形としても用いられますが、話し言葉では"-ar-"を除いた形態が使用されることもあり、「見る」は「見れる」となります(一般には「ら抜き言葉」とされています)。
 可能形、および可能形から派生する活用形は、以下の理由により活用形の個数に算入しないことにします。まず、動詞が無意志動詞である場合はそもそも可能形が存在しません。次に、可能動詞自体も無意志動詞となり、命令形などの一部の活用形を取れません。また、「読む」の命令形と可能動詞「読める」の連用形が同じく「読め」となるなど、形態が一致する活用形があるため、活用形の個数を数え上げることが困難になります。
 ここまでの議論で、動詞「読む」には「読む・読まれる・読ませる・読まされる」の4つ以上の活用形が存在することが確認できました。次回は極変数について解説します。


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